調味料をめぐる中でおもう、おいしい醤油とはなんだろう?~醤油をめぐるその3


 前回は、ヤマロクさんに(私が勝手に)見た、家業を継ぐこと、そして、小さな地方のファミリービジネスが、どうコンセプト決め、どう生き残るのか、そしてそのための発信をどうするのか?ご紹介しました。今回は、商品力ともいうべき、味のことです。

なにしろ、醤油がおいしくなければ始まりません。でもその話の前に、はて?おいしい醤油ってどんな醤油なのでしょう?

私は『だしの教室』をやっています。そこでは、変わったことはしていません。昆布は水にしっかりした量とたっぷりの時間つけて、この昆布だし(水)に火を入れて、かつお節を加えて、1分くらいでさっと引きあげます。一方で、なぜそうするのか?理由はしつこく話します。どんな昆布がいいのか産地の話や天然と養殖の違い、そしてなぜ昆布は水だしがいいのか、温度との関係、かつおの身上は?なぜすぐに火を止めるのか、1分半くらいであげちゃうのか、なども説明します。また、このいちばん出汁を味わっていただくのが一つのゴールなのですが、その前に、いろいろ味見して頂きます。まずは、3大産地の最高の天然昆布を同じ条件でつけた昆布水3種。そして、荒節のけずり節と本枯れ節の削り節、先の一番だし。これをつかった、塩八方(だしに塩だけ、浸け地に使う)、めんつゆ、2杯酢、3杯酢、吸い物地、そして、3、4種のみりんです。(宣伝か?ばく。)

なんでみりん?と思われそうですが、私は煮ものにも主にみりんを使うし、だしの教室で紹介するめんつゆにも砂糖は一切使わないので、みりんの味がとても大事だと考えています。和食の場合、特に炊き物の場合、みりんの差が出来上がりの差に一番影響するんじゃないかな?と思っています。また、みりんは単体で味見をする人が少ないようです。いい機会なので、いつも、3,4種ご用意してお味見して頂きます。加えてみりんは、存在を知らない人は少ないかもしれませんが、使うとなると地域性のある調味料で東北や北海道はほとんど使いませんし、九州もあまり使いません。なので、なじみがない方も多く、おすすめしたい調味料としてもご紹介したいのです。

じゃ、醤油はいいのか?と思いますよね?私は醤油のおいしさというのは、味噌と同じで、育った地域に依存すると思っていました。私は九州なので、甘い醤油?と思われそうなのですが、生まれ育った長崎の醤油はあまりあまくありません。甘口という表記のものも売っていますが、九州の中で唯一、ベースの醤油は甘くない。これは、砂糖がふんだんにあって、料理が江戸料理と並んで甘かったからだと思います。なので、私はきりっとした醤油が意外と好きです。そんなわけで、みなさんお醤油は、地域のこだわりがあるでしょうから、自分が美味しいと思うのを使って下さい・・といつも話していたのです。

しかし、ある時、それは違うのかな?と思うようになりました。それには二つのきっかけがあります。ひとつは、あるアウェーの料理教室で、調味料のことをお話し、数種の醤油を味見して頂いた時のこと。そこにいたほぼ全員が、全国区であるK社の醤油をつかっていたのです。生まれ育った地域に関係なく。しかも親の代からそれを使っていた方が多かった・・・まじ?と思いました。そして、お出しした醤油を、美味しい!と感激して下さって、嬉しかったのですが・・・うううむ。

もうひとつは、わが生まれ故郷長崎で、駅前の大きなスーパーに行った時のこと。それまで見たことがなかったのですが、何気なく醤油売り場を見たら、なんと、地元の醤油が1種しかなかったのです。あとは、全国区の大メーカーの醤油。しかも関東発の!!もちろん、デパートにはたくさんの地元メーカーの醤油があります。でも、おそらく子育てなどしている働き盛りが一番行くであろう大スーパーには、なかった。がーん。

以来、醤油も味見して頂く機会をもうけるようにしています。やはり料理に大きな影響を与える調味料なので。
もしかしてだけど♪もしかしてだけど・・・?醤油にも、生まれ育った地域の味なんてないんじゃないの??????ってことで。(これが危惧ならいいのですが。)

醤油なんてDNAの一部だから、自分にしみついた、生まれ育ったところの醤油が何と言ってもおいしいよね、という考えはもはや成立しないのかもしれません。では、あらためて、美味しい醤油って?なに?

家の醤油を見てみてほしいのですが、特選、とか超特選なんて言うのもあると思います。当たり前ですが、これらはメーカーが勝手に書いているのではないようです。JASが基準を設けていて、「標準」「上級」「特級」「特選」「超特選」の5段階に分けれています。なにで決めているかと言うと、「窒素量」「色の濃さ」「エキス分」などを数値化して決めています。中でも窒素量は、うまみ量としてとらえられていて、最も重視されているようです。理由は、うまみの素である、グルタミン酸を含むアミノ酸は、必ず窒素分を含んでいるから、窒素分が多いとうま味が強い、となる(する)わけです。例えば、特級は1.5%、超特選はその1.2倍なければならない・・というように。

しかし、これは、JASに加盟している醤油屋さんだけのお話。ビオ認証にお金がかかりすぎるので、自然派であっても認証がないすばらしいヴァンナチュール(自然派ワイン)があるのと同じで、高い加盟料を払わず(払えず)にいい醤油を作っているところも、たくさんあります。昔、特級酒や大吟醸より、一級酒が好き・・という日本酒通がいたように、特選より上級くらいが好きとかあるかもしれません。また、窒素量をとにかく増やそうと思えば、技術でもカヴァーできるようです。発酵や熟成の時間や材料の良しあしが、そのまま窒素量になるとは限らない・・私はナンセンスな気がしています。ただ、JASに加盟している醤油屋さんなら(JASマークがついている醤油なら)超特選という醤油には、その醤油屋さんの気合、思い入れ、プライドが込められているはずです。表示に、それを(プライド、気合)見たらいいのだと思います。

再び、醤油の裏を見てほしいのですが、今度は材料です。基本は、大豆、小麦、塩、水が材料。(それ以外に糖分やカタカナのなにか?などがあったら、加糖したり味をつけたりしてあります。)まず大豆。大豆と書いてあるか?脱脂加工大豆と書いてあるか?と言うのも、多くの醤油が大豆ではなく、脱脂大豆で作られています。いわば大豆の搾りかすです。最初にも書きましたが、私は醤油造りのワークショップに行った時、材料として脱脂大豆を渡され、愕然としました。しぼらない大豆そのままの方が美味しい醤油になりそうでしょ?その想像はあたりで、大豆でつくるか、脱脂大豆でつくるかは、確実に差が出るところだと思います。余談ですが、なぜ、世の中に丸大豆醤油なるものがあるのか?わざわざ、脱脂大豆じゃないことを、丸大豆と表現しなければならないほど、脱脂大豆が主流だったということではないでしょうか。私はここは、おいしい醤油のあるラインかなと思っています。さらに、国産大豆が安心だと、私は思います。(味に、これを感じるかは別問題ですが)

次に、小麦、塩。気になる場合は、いずれも国産かどうか見て下さい。国産なら、国産と書いてあると思います。ただ、塩まで国産のところはあまりありません。やはり量がいる(とんでもない価格になる)と言うことと、海外にまろやかでおいしい塩がたくさんあるということ、両方の理由からだと思います。たまに、沖縄などの国産の塩を使っている醤油屋さんもあります。

小麦は国産小麦をつかっているところは注意してみれば結構あります。国産小麦の値段はあがっていて、本当に大変で、パン屋さんもほしいほしいと言っています。醤油業界は古い業界なので、国産小麦の入札力も高く(入札順が早い)優先的に手に入れられるようです。
さらに、いずれも有機だというところもあります。ただ、小麦については、麹にするところでノウハウもあり、国産や有機がすなわち味に影響するのか?私にもわかりません。ただ、国産や有機ということにこだわっているということは、全工程にこだわりを持って作っている醤油屋さんであることは確かです。安全や安心にコストをかけていることも確かです。

こういう醤油は、一般的に、750ミリリットルで、1000円くらいです。キャミソールを1枚、新調するのをやめたら買えます。グラスワインを1杯、ビールを2杯くらいかな。

そこで、再び、美味しい醤油とはどんな醤油なのか?その答えは、それぞれ全員にあるとおもうのです。このようなグループの醤油の中で、自分にとって美味しい醤油を、探してみてはどうでしょうか?

この先にある違いは、例えば、再仕込みが好きかどうか?醤油をまず普通に水で作り、出来あがった醤油で、再び醤油を作る(水ではなく醤油で醤油を仕込む)のが再仕込み。当然、濃厚になりコクも増します。
または、麹をどうしているか?自分のところで麹から仕込んでいるか?(麹にこだわっているのか?)
さらには、木桶で仕込んでいるか?例えば年季の入った木桶があれば、そこには、無数の種類の菌、乳酸菌などがついていて、蔵全体が生きています。しかも、それはそれぞれの地域の気候や風土でも違ううえに、各醤油蔵で全く違う菌の構成になるので、唯一無二でもある。

ワインや日本酒を選ぶ時に、樽や杜氏を気にしたり、葡萄や米の品種を家族や友達と語ったりするように、醤油のことを考えてみたらいいんだと思います。

さらにその先には、マグロの刺身には、これ。煮ものにはこれ、つゆにはこれ・・という目的に合わせた醤油、という世界があると思います。刺身用には、小さなサイズの再仕込み醤油を冷蔵庫で常備し、日々の煮ものにはまた別の少しリーズナブルな醤油をというように。

おいしい!と思う醤油があれば、デパ地下で閉店間際に安くなってから買った刺身も、シンプルな冷奴も、ぐぐっとご馳走になるわけで、食卓に向う自分の気持ちも、醤油1本で変わるものだと思います。

自分にとって、おいしい醤油って、どれ?だろう?そんな楽しみをぜひ。

さて、私にとっての、おいしい醤油のひとつ、代表格でもある、ヤマロクさんの鶴醤の美味しさの話を、今度こそ、次回。

写真syouyu�B-L--�B 2

※上はわが家のラインナップの一部。下はみりん蔵。みりんの話もいつか書きたいな~。

###