ヤマロク醤油の2番目にすごいこと、小さなファミリービジネスをどうするか?その一つの答えがあると思う。~醤油をめぐるその2


小豆島には、私の手元の資料によれば、21の醤油醸造所があるそうです。最盛期の明治から昭和初期は400を超えていたそうですから、激減していったことになります。

今でも、前回、ご紹介した通り、OEM的な?桶売りと言われる醤油を作っているところも多くあります。例えば、前出の京都の醤油屋さんの醤油は、ここ小豆島の丸金醤油さんの醤油でした。世の中にこういうものはたくさんあるのは知っている訳ですが、完成品である醤油を醤油屋に売るというのは、今も、なんだかとても違和感があります。

ただ、この桶売りのニーズが小豆島の醤油づくりを支えてもいるのかな、と感じました。いわば、下請けです。まだまだ勉強不足で怒られるかもしれませんが、乱暴に言えば、京都や大阪、あるいは東京で、もう醤油が量産できなくなった、その地域の名士である醤油屋さんを、下請けとして支えることで生き残ってきたのではないかと思うのです。

寡黙に、365日働いて、いい醤油をつくっていても、自分の屋号では売れない。売る方法もないし、販路を拡大しようにも手段がない、利ざやが極端に少なくても、自分の醤油がどこでどういうブランドで売られるか?よくわからなくても、出荷するしかない。売りたたかれることもあったでしょう。原料が上がっても、反映させられないこともあったでしょう。地域で売ると言っても、醤油屋があつまった島でのこと、なかなかに難しかったと想像します。

でも、ここに、大きな変化が訪れる。いや変化は訪れないので、変化をもたらした挑戦者が、ヤマロクさん、五代目当主の山本康夫さんじゃないかと思っています。

私が、ヤマロク醤油の醤油に出会って まず感動したのは味。そして実際にヤマロク醤油さんの蔵に行って感動したのは、150年越えと言う木桶と、その木桶による醤油の製造過程、再仕込みの丁寧さ、贅沢さです。そして、これは、すなわちおいしさの秘密です。

でも実は、それ以上に驚いたことが、山本さんがやっている挑戦でした。

おいしさの秘密を書くのが先かもしれませんが、ここではあえて、彼の挑戦者としてのすごさを、先に書きたいとおもうのです。なぜなら、これを書くことを逡巡していたので、なかなかブログでヤマロクさんのことが書けなかったからです。

私の実家は旅館でした。私が中学3年生になるまでは、木造4階建ての純日本旅館で、おおきな間口の玄関に、池があり、広間があり、板前さんがいて仲居さんもいて・・といういわゆる大型の観光旅館でした。しかし、年々お客さんは減り、建物の半分で営業出来るようなありさまになり、結局、地の利を活かして、ビジネスホテルにしました。しかもとても凡庸な。

戦争も原爆も経て、半分焼け残った4階という特殊なものもあり、重要な木造建築だったようですが、壊してしまいました。大人になって、家業を継ぐか?という話になった時、私は継がないと言う選択をし、結果、廃業しました。どこの街にもあるビジネスホテルだったことは、私が継がない選択をし、親もそれを認めた理由の一つだったと思います。そのとき、もし、あの建物が残っていたら、手入れして付加価値をつけてブランディングしたら、すばらしかったかも?と思いました。もちろん、壊してホテルにしたおかげで、私も大学にも行けたし、すねもかじりまくったとは思い親に感謝していますが、なんと取り返しのつかないことをしたのか?と思ったり。この仕事をするようになって特に、今なら、料理旅館に?と思ったりします。(結局、つぎもしなかったくせに、都合のいいことだけ思う。)

きっと全国に、こういう葛藤と闘っているファミリービジネスの現場がたくさんあると思います。続けるには、投資が必要。しかもそれは次の世代にも影響し、がんじがらめにしてしまう。製造業なら、新しい設備をいれないと立ち行かない、しかし、それには資金も必要、変化に対応する力も必要、どうしようと思ううちに日々が過ぎていく。一方、投資して新しくしたものの、結果として、どこにでもあるモノになって、苦悩が深まったり。

ヤマロク醤油の山本さんも、お父様から、継がなくてもいいと言われたそうです。想像ですが、醤油醸造業に未来を感じていなかったのかもしれません。当時は、いわゆる桶売り的なことが多かったと聞きます。それでも、継ぐことにし、サラリーマンをやめて、小豆島に戻ってきたそうです。そして、木桶で仕込む醤油を守ることを決意します。たぶん、伝統的な木桶で作られる醤油の希少さ、すばらしさに、改めて気付かれたのではないかと思うのです。

山本さんはよく 『うちは、金がなかったから、ポリタンクをいっぱいつくるとか、機械化とかできなかったんです』と言います。たぶん、その通りなんだと思うのです。しかし、結果として、150年を超える、ザ・ヤマロクの木桶が残っていた。

どんなにお金を積んでも、手に入れることができない150年を超えるヤマロクの菌がこびりついた木桶と蔵が生きてそこにあったわけです。しかも、それが、おいしさの原点だった。希少な作り手、稀有なプロセス、お宝な道具、おいしい商品。

でもそれは、これまでもそうだったんですよね。お父さんの代でも、そうだった。木桶でていねいに、厳選した材料で、いい醤油、ヤマロクの味をつくっていた。それでも、いまほど、たくさんの人が注目する醤油、調味料ではなかった。ヤマロクブランドも確立されてなかった。

今、ヤマロクさんは、うりあげは数倍になり、ヤマロクブランドとして、鶴醤や菊醤が、指名して買われ、デパートにも置かれ、テレビでも雑誌でも紹介され、たくさんの人に愛される醤油になっています。メディアも出たことがない局、新聞がないくらい取り上げられている。

これはすべて、5代目の山本さんが、自分たちが何代も作ってきた醤油を信じて、そこに物語をそえたからだと思います。いやな言い方ですが、そこに付加価値をつけた、まさに、ブランディング!です。

木桶のみ100%、150年越えの歴史、国産原料、365日手をいれる、

そして、新たな投資は機械化でも、FRP防水タンクでもなく、新桶へ。しかも木桶をみずから手作りする。

すべて、掛け値なしに、実際にやっていることです。でも、家業の発展をこの方向に定めた覚悟が、まず、すごいと思います。それは決してリスクが小さいことではないから。

そしてそれを発信することもすごい。とてもセンスがいいなと思います。

山本さんは、ヤマロク醤油さんとしてFBで発信しています。これもいち早く始めていたし、それで知った人はすごく多いと思います。でも、ただやみくもに、美味しい醤油を発信するのではなく、商品を宣伝するのでもなく(商品を宣伝してるのはほぼ見たことがない)、木桶のこと、材料のこと、小豆島の仲間のこと、そしてヤマロクさんを訪ねてきた人たちのことが主な内容です。物語を発信しているのです。

さらに見学はほぼ100%受け入れる。ここも重要で、私たちは行けば、そのすばらしき木桶仕込みを見ることができます。醤の香をかぎ、新桶もみせてもらえる。

日本中に、木桶で醤油を仕込んでいる醤油屋さんはほかにもあります。小豆島にもあります。でも、木桶仕込み、醤油とグーグルさまに入れて検索すると、ヤマロクさんがでてきます。小さなファミリービジネスの小豆島の醤油屋さんが、広告宣伝費用などたぶんなく(あったらごめんなさい)、ここまでしっかりとしたブランドに育てるって、すごいことですよね。

もちろん、それには、絶対的な商品力が必要不可欠です。特に調味料は嗜好性が高く、一方で、毎日使うもので、特に醤油がない家はないような必需品です。ひとさじで、味がわかるし、好き嫌いもはっきりする。さらに、価格の幅が広く、なんでもよければ、100円ショップにもある。だからこそ、商品に力がないと、ブランドにはならないと思います。一方で、たとえ商品に力があっても、作り手に自分の商品を信じる力や、方向性を決める力がなく、だれにも知られなかったら、もしかしたら、桶売りをしているしかない、かもしれない。

まだご本人に聞いたことはないのですが、たぶん、高度なマーケティング理論とか、ブランディングとか机上で学ばれてはいないと思います(どうしよう、学んでたら・・・)でも、間違いなく、山本さんはブランディングの天才です。

そこで、思ったんです。結局は、自分の作っているモノをだれよりもよく知っていることが、最高のマーケティングディレクターであり、ブランディングの根っこなんだなあ、と。そして、全工程を自分で、(しかも、ほぼたったひとりで)、とことんまで味にこだわり、絶対に手を抜かず、作っているからこそ、できるのだと。だからこそ、ともすると、たくさんのメディアへの露出が産む、嘘っぽさを払しょくすることもできる。

絶対誤解されたくないので、しつこく書きますが、決して 宣伝がうまいのとは違う、一線を画すものです。前回も書きましたが、私の調味料めぐりの原動力は、おいしいものを探す食いしん坊パワー。ヤマロクさんの醤油はとにかくおいしいから、好き。そして力がある。その力の源を、きちんと物語として伝えているのがすごいと思うのです。

私は、たぶん、ここには、日本中の『家業のある家』が探している答えがあるとおもっています。

そして、歴史や知の蓄積、地域での存在感はあっても、小さくて資金力のないファミリービジネスをどうするか?日本人全員サラリーマン化が進む中で、私自身がとても興味をもっているテーマなのです。

次回は、肝心なおいしさの秘密のことを書こうと思います。

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山本さんの上京に合わせて、お話を聞く会、開催します。詳細とお申込みはこちらから。  ★★

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